スタッフの気持ちがバラバラに…?M&A後の”チームづくり”で大切なこと

〜「⼈の融合」が成功のカギ。現場の実例に学ぶ、M&A 後のマネジメント術〜

福祉業界では近年、経営規模の拡⼤や⽀援⼒の強化を⽬的として、⼩規模事業者同⼠が⼿を組む「⽔平型M&A」が増えつつあります。事業の統合は、施設運営や利⽤者⽀援にとって⼤きなチャンスとなる⼀⽅で、実際に現場で問題となるのが「スタ
ッフ間の気持ちのズレ」や「⽂化の違い」です。
本記事では、M&A後に⼀つのチームとして再スタートを切るために重要な視点と、実際に⾏われた成功事例をもとに、円滑な組織づくりのポイントをお伝えします。


M&Aを経て、運営体制や収⽀構造が整備されたとしても、職場にいるスタッフの気持ちが統⼀されていなければ、現場での混乱は避けられません。特に以下のような要因が、チームの⼀体感を妨げる原因となることが多く⾒られます。

「どちらが正しい」ではなく、「どうすればお互いに気持ちよく働けるか」を考える視点が、M&A後のチームづくりでは特に求められます。


中部地⽅のある福祉事業者では、隣接エリアで活動していた別法⼈と経営統合を⾏いました。両社とも地域に根ざした⽀援に取り組んでいたものの、職場の雰囲気や意思決定の仕⽅が異なっていたため、当初は現場での摩擦も⽣じました。
そうした状況の中で、両者が協⼒して進めた主な取り組みは次のとおりです。

【⽉に 1 回の「合同リーダー会議」を開催】
→役職者が集まり、統合後の⽅針や現場課題を率直に話し合える場を設けた。

【「良かった⽀援事例の共有会」を実施】

→ それぞれの現場で好評だった⽀援⽅法を持ち寄り、互いの良さを尊重し合った。

【⾮公式の「スタッフ座談会」を開催】

→ ⽴場や役職を問わず話せる交流の場をつくり、⼼理的な距離を縮めた。

【統合後の「新しい理念・ビジョン」を共に策定】

→ ⼀⽅の考えを押しつけるのではなく、両法⼈の価値観をすり合わせた上で“新しい共通の⽬標”を設定した。

こうした取り組みを通じて、当初は不安を抱えていたスタッフ同⼠にも徐々に信頼関係が築かれ、「この施設で⼀緒に頑張っていこう」という前向きな空気が広がっていきました。


M&A後に現場で混乱が起こらないようにするには、あらかじめ「⼈の融合」に配慮したマネジメントが不可⽋です。ここでは、チームづくりを成功させるための3つのアプローチをご紹介します。

① 統合の⽬的と今後のビジョンを丁寧に共有する

スタッフの不安や⼾惑いの多くは、「なぜ統合したのか分からない」「⾃分の働き⽅はどうなるのか」という先の⾒えなさから⽣じます。経営層がきちんと⾔葉にして、統合の⽬的と⽅向性を共有することが、安⼼感を⽣み出す第⼀歩となります。

② 話し合える環境を意識的につくる

⽇々の業務が忙しい現場では、意⾒交換の機会が後回しになりがちです。意識的に「話せる時間と場所」を確保することで、すれ違いを防ぎ、率直な意⾒を吸い上げる⾵⼟を醸成できます。⾯談やアンケートだけでなく、⾃由参加の交流会も有効で
す。

③ ⼩さな協働を成功させ、チームの⼀体感を育てる

統合したばかりの時期にいきなりすべてを⼀体化させるのではなく、まずは⼀部の業務やプロジェクトから協⼒を始める⽅法も効果的です。たとえば「合同イベントの開催」「業務マニュアルの共同作成」など、⼩さな成功体験を積み重ねることで、チームとしての結束⼒が⾃然に育まれていきます。


福祉の現場では、⼈と⼈との関係性がすべての⼟台です。M&Aは組織としての「器」を広げる機会ではありますが、それだけで持続可能な経営が実現するわけではありません。
本当に⼤切なのは、統合後に「ひとつのチーム」として共に歩むための⼼の準備と対話の積み重ねです。
スタッフ⼀⼈ひとりが⾃分の役割に誇りを持ち、⽀援に向かって同じ⽅向を⾒られる――そんな職場こそが、利⽤者にとって安⼼できる場所であり、地域に根ざした福祉の⼒になります。


M&Aを単なる経営⼿法ではなく、「より良いチームをつくるための機会」と捉えることが、福祉事業の未来を明るく照らす第⼀歩となるのではないでしょうか。