「福祉事業は儲からない」は本当か?

異業種経営者が変えるべき誤った常識と利益構造

「福祉事業は儲からない」と耳にすることは多いですが、実際のところ、それは“制度構造を理解していない”ことによる誤解であるケースがほとんどです。福祉事業は他の業界とは異なり、報酬単価が国によって定められた安定型ビジネス。しかも、制度を正しく理解し、組織体制を整えることで、十分に収益性の高いモデルを構築することが可能です。
ここでは、「儲からない」という思い込みを覆すために、報酬制度・人員配置・経営効率の3つの観点から、福祉経営の利益構造を具体的に解説します。


福祉事業の大きな特徴は、報酬(サービス料金)が国によって決められていることです。そのため、民間ビジネスのような価格競争が発生せず、安定した売上モデルを描けるのが強みです。たとえば、放課後等デイサービスでは「基本報酬」に加えて、支援体制や専門職の配置などで「加算」が上乗せされます。この“加算の仕組み”こそが、利益を左右する最大の要素です。

報酬制度を「行政のルール」として受け身で捉えるのではなく、「経営をデザインするための設計図」として活用することで、事業は安定性と成長性の両方を手に入れることができます。


福祉業界では「人件費が高い=儲からない」という声をよく聞きます。ですが、本質的には“配置の仕方”によって結果は大きく変わります。たとえば、職員を最小限にして一見コストを抑えても、必要な加算が取れなければ、結果的に収益を逃している状態になります。逆に、加算要件を満たす体制を整え、専門職や経験者を配置することで、人件費を上回る利益を生み出すことが可能です。

つまり、「人件費=支出」ではなく、「利益を生む仕組みへの投資」として設計する発想が重要です。
具体的には次のような施策が効果的です。
・加算取得に必要な職種・資格を逆算して配置を決定
・職員教育・評価制度を整えて離職率を下げる
・モニタリングやケース会議を仕組み化して属人性を減らす

人を「増やす」ことではなく、「機能させる」ことで利益を最大化する。これが福祉経営における人材戦略の真のポイントです。


福祉事業の経営で意外と見落とされがちなのが、「現場の非効率による損失」です。請求・記録・加算管理・会議──これらを手作業で運用していると、職員が支援以外の業務に多くの時間を費やし、結果的に生産性が著しく低下します。この“時間のロス”こそが、見えない赤字の正体です。

業務効率を上げるには、デジタル化と仕組み化が欠かせません。
・請求・加算管理システムを導入し、ヒューマンエラーを防ぐ
・個別支援計画やモニタリングをデジタル共有して情報連携を迅速化
・会議や研修をテンプレート化して時間を短縮

こうした改善を積み重ねることで、1拠点あたりの管理コストを10〜20%削減できるケースもあります。効率化によって浮いた時間を支援の質向上に回すことで、「経営効率」と「サービス価値」の両立が実現します。


「福祉事業は儲からない」というのは、制度を知らないまま始めた場合の話です。報酬制度を理解し、加算を計画的に運用し、人材を戦略的に配置し、業務を効率化する──。この3つを実践することで、福祉事業は社会性と収益性を両立できる持続可能なビジネスになります。

安定的に報酬が支払われ、地域からの需要が高く、しかも国が制度として支える分野。それが、福祉経営の強みであり、異業種経営者にとって大きなチャンスです。「福祉は儲からない」ではなく、「理解すれば持続的に儲かる」──これこそが、今の時代における“新しい福祉経営”の常識です。